スタッフHの論文レビュー　「上田琢哉(1996)　自己受容概念の再検討―自己評価の低い人の“上手なあきらめ”として―」

2021.10.11

スタッフブログ

こんにちは！埼玉県さいたま市南区、武蔵浦和駅の近くにあります「就労移行支援/自立訓練(生活)事業所、アイトライ武蔵浦和センター」のスタッフHと申します！

唐突に始まりましたこの企画も2回目の記事を書くことができました。

当事業所でのイベントや訓練内容に結びつくような論文をレビューし、私自身の感想も述べていきたいと思います。

今回、取り上げるのは、「自己受容概念の再検討―自己評価の低い人の“上手なあきらめ”として―」という論文で、学習院大学の上田琢哉氏が1996年に心理学研究第67巻4号に寄稿したものです。

アイトライ武蔵浦和センターでは、9月より、ACT(アクセプタンス＆コミットメントセラピー)という、第3世代の認知行動療法をプログラムで実施しており、そのACTの鍵概念の中に、「受け入れる・受容」という言葉があります。

そもそも、アクセプタンス＝受容という意味です。

そのACTのプログラム中や、プログラム後に

「受容することと諦めることって、どのように違うのですか？」

「プログラムを聞いていて、あまり変わらないように思うのですが・・・」

とご質問を受けることがあります。

私自身も、明確な答えを持っておらず、論文漁りをしていたところ、この論文に当たったということです。

上田氏によれば、自己受容は心理学的に重要な概念ではあるが、明確な定義はなく、また、自己受容には2つの問題点があると指摘します。①自己受容が自己評価の高さと混同されることが多いこと。②自己受容の持つメタ認知的機能に多くの研究で言及されていないこと。です。

メタ認知とは、「自分がどのような認知をしているかを認知していること」というやや面倒くさい概念ですので、詳しい解説は端折ります。

閑話休題、話を論文の方に戻しますが、この研究では自己評価の低い人がそのことを認めたうえで、自身に対して“しょうがない”と感じ、自分自身に対して良いと感じることを”上手なあきらめ”として、定義して、検討を行っています。結果として、自己評価の高い人が自己受容的ではなく、むしろ自己評価の低い人に自己受容的な構えが存在しており、“受け入れる”とは、自己が受け入れがたいものだからこそ、そう言えるものであり、受け入れがたい自分を受け入れる“あきらめ”にこそ、自己受容的な構えの意義があると考えられる。と結んでいます。

私はこの論文を読んで、確かに受け入れがたいものを受け入れるこそ、受容なのだろうなと思う反面、”あきらめ”が受容と同義語になることに若干の違和感を覚えます。あきらめという言葉を使うと、そのことに対しては考えること、捉えることをやめるという流れを止めるニュアンスをはらんでいると考えています。そして、受け入れることは、その人とともにある状態、“being”な状態であることだと思っています。

そのため、人が自分の特性についてあきらめたときは、そのことについて考えない、対策も取らないし、どうしようもないと割り切ることであり、受け入れたときは、そのことを前提に対策を考える。どうしようもないが、他の側面で補っていこうとする能動性を感じられます。